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水先案内人のおすすめ

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柔軟な感性でアート系作品をセレクト

恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

我来たり、我見たり、我勝利せり

オーストリア発、現代社会を撃ち抜くブラックなファミリードラマ。物語は、超富裕層の一家──若くして巨万の富を築いた実業家アモン・マイナート(ローレンス・ルップ)とその家族を中心に回る。アモンは、ワーク・ライフ・バランスを大事にする男。家族に愛情、仕事に情熱を注ぎつつ、趣味の狩猟にいそしむ。ただし、彼が銃を向けるのは人間。スポーティーに人を射殺し、自然保護区での工場建設を進め、財界の恩師の寝首をかくなど、とんでもないことを洗練された立ち居振る舞いで平然とやってのける。連続射殺犯として告発しようとする者もいるのだが、彼の財力と権力は、正義を一瞬で蒸発させてしまう。そして、13歳になるアモンの娘パウラ(オリヴィア・ゴシュラー)は、父から学んだ流儀を実践し始めていた。 あっけらかんと無慈悲なマイナート家の人々を中心に世界は回っていく。罪を犯せば罰が待っているはず、という「常識」は、この映画の世界では通用しない。監督のダニエル・ヘールスとユリア・ニーマンは、富や権力を題材にした映画を撮ってきた気鋭。生半可なカタルシスを観客に与えず、ごく少数の超富裕層の野放図な暴走を許した先にあるものを想像させる。ある一家の物語に終わらせず、崩壊の予感に満ちた世界の見取り図を、たんたんと、でもリアルに描き出し、観客を挑発するのだ。世界にその名をとどろかす異能ウルリヒ・ザイドル(『サファリ』『パラダイス』三部作)のプロデュース作でもある。

25/6/1(日)

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