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村山 章
映画ライター
サスカッチ・サンセット
25/5/23(金)
新宿ピカデリー
えたいの知れない映画におカネを払うのは勇気がいるし、『サスカッチ・サンセット』の予告編や紹介文をチェックしても、多くの人が「どんな映画かサッパリわからん!」と叫ぶはず。逆に言えば「ほとんど誰も観たことがない映画」が広がっているので、それだけでチケット代以上の価値があると思うが、もう少し説明は試みてみたい。説明不要な方は、これ以上読まずに劇場に走ってください! “サスカッチ”とは、通称“ビッグフット”と呼ばれるUMA(未確認生物)のこと。実在するかはともかく世界中で目撃証言があり、毛むくじゃらで二足歩行する、限りなく人間と類人猿の間のような野生動物だ。そして本作は、大自然の中で生きる4匹(4人かもしれない)のサスカッチの生態を、あくまでもサスカッチ視点で描ききった画期的な映画なのである。 しかもジェシー・アイゼンバーグやライリー・キーオといった名優が着ぐるみを着て、ウオウとかウガーとか言いながら全身全霊でサスカッチになりきっている。それも圧倒的に美しく厳しい自然の風景の中なので、まるでネイチャードキュメンタリーを観ている錯覚に陥ってしまう。 しかし本作は「ウソの動物を本物に見せる」というケッタイなお遊びをしてるわけではない。限りなく人類に近いけれど原始人よりも原始的なサスカッチは、人間と自然とを繋ぐミッシングリンクのような存在で、おかげでわれわれ観客は、かろうじて“人間ではないナニカ”の目線になって彼らのサバイバル生活を見ることができるのだ。 動物を主人公にした映画はたくさんあるが、その多くは動物を擬人化して、人間と同じ感情や思考を与えているファンタジーと言える。本作だってファンタジーと言えばファンタジーだが、これほど野生と同化させられる映画は稀有であり、同時に、画面に映ることのない人間との関わりについても考えさせられる。交尾をめぐってケンカしたり、ウンコを投げつけたり、バカげたアニマルムービーのようでいて相当深淵なところまで踏み込んだ野心作。まだ映画館でやってるうちにぜひこの知られざる世界に飛び込んでほしい。
25/6/1(日)