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映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
年少日記
25/6/6(金)
新宿武蔵野館
小学校教育が問題となる事件を描くには、どうしても親や先生という大人視点が多くなりがちだ。本作もひとりの教師が主人公だが、彼が今抱えている私生活の問題と、勤務する学校で起こった自殺をほのめかすメモを書いた人物探しというふたつの物語が、やがて彼が語り出すある少年の体験と繋がっていくのだから心底素晴らしい脚本なのだ。 何故、彼は恋人と別れてしまったのか。何故、彼は心を閉ざした生徒に対して、スクールカウンセラー以上に介入しようとするのか。人物の行動心理も緻密に表現された本作は、幼少期の出来事が人生に影響を及ぼすことや、親という支配下の中で生きる子供の心の叫びをしっかりと綴っていた。 良い大学に入るのも社会的な成功を願うのも、結局は親の願望であり、子供は親に認めて欲しい一心で期待に応えるということもある。これは全世界共通の問題で、そんな歪んだ愛情の形をある家族の出来事として描くことで、観客は自身の家族について想いを馳せるのだ。しかも子役ふたりの演技の上手さで、すっかり感情移入してしまう。一瞬たりとも目が離せないとはこういった映画のことを言う。何故ならしばらく少年の顔が頭から離れないほど、強烈だったのだ。
25/6/3(火)