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映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
国宝
25/6/6(金)
TOHOシネマズ日比谷
冒頭から物語がどう進むのか想像が出来ず、あっという間に魅せられて、気づくとエンドロールを迎えていた。俳優ひとりひとりの表情をカメラがしっかりと捉えているので、登場シーンが短い俳優の表情も印象に残っている。とにかくカメラワークも美術も衣装も編集も演技も一級品なのだ。 刺青を背負った歌舞伎の女形の半生を綴るというだけで興味が湧くが、この喜久雄役を吉沢亮が演じ、良きライバルとなる生粋の歌舞伎役者の息子で女形となる俊介役を横浜流星が演じるのだから、面白くならないわけがない。切磋琢磨で芸を高め合う姿は、実際の演技にも反映されており、ふたりの代表作と言いたくなるほど、すべてのカットから目が離せず、息を呑むシーンだらけだった。 実は前半の子役時代も素晴らしく、まだあどけなさが残る少年の静かな怒りや、稽古にかける純粋な思いが、黒川想矢と越山敬達により表現され、いつまでも観ていたいと思ってしまうのだ。興味深いのは、あくまでも喜久雄の物語だが、途中から俊介の物語に思える瞬間がある。それは、俊介の感情が揺らぎ始めた時から観客の視点がスイッチするのだが、このふたりの描き方が実に上手いのだ。歌舞伎の世界でしか生きられないふたり物語に胸が震えっぱなしだった。
25/6/5(木)