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監督、役者に着目して選んだこの映画

樋口 尚文

映画監督、映画評論家

美輪明宏 × 深作欣二 『黒蜥蜴』 『黒薔薇の館』

『黒蜥蜴』(監督:深作欣二) あの美輪明宏がまだ丸山明宏だった1968年の松竹映画『黒蜥蜴』を、私はリアルタイムの封切時に観ているのだが、それにはわけがあって、お盆映画として二本立てで公開された『黒蜥蜴』の併映作は今もタランティーノがSFホラーの珠玉篇として称揚する『吸血鬼ゴケミドロ』だった(タランティーノは『キル・ビル』冒頭で本作そっくりのカットを再現してみせたほど)! 幼い私は『吸血鬼ゴケミドロ』に惹かれて劇場に行き、結果『黒蜥蜴』に出会ったのだった。二本観終えた後の私は、もうおつむのオーバーローディングで知恵熱を出したが、まあそのくらい面白かったわけである。 後年なら鉄板の『男はつらいよ』シリーズで打って出るはずの大事なお盆興行に、『黒蜥蜴』『吸血鬼ゴケミドロ』をぶつけて来る当時の松竹の冒険精神はあっぱれだが、しかもこの松竹の監督には不得手そうな二作をともに深作欣二、佐藤肇という他社=東映の異才たちを招聘して作ったというから驚きだ。そんな『黒蜥蜴』は併映作が物語るように、思いきりキワモノ的な興味で売られていたわけだが、そのあでやかな女性盗賊が華麗なる振る舞いで男どもを圧する物語はLGBTQ的主題に絡めて今や「最前線」の映画となっている。 丸山自身が唄う「黒蜥蜴の歌」のダークな優雅さは蠱惑的で、日本文化にディープに染まったスペイン映画『マジカル・ガール』ではエンディング曲に選ばれていた。このほか、丸山を愛した三島由紀夫自身が思わぬかたちで登場するのも見どころのひとつだが、ちょうどこの年に自伝『紫の履歴書』も発表して時代の寵児となっていた丸山が扮して当たり役となった『黒蜥蜴』は、その後も丸山自身によって舞台で幾度も上演され熱烈な人気を博した。私もその舞台版には幾度も足を運んだが、キッチュな美と絢爛たるオーラによってもはや「黒蜥蜴」といえば丸山=美輪でしかありえないのであった。

25/6/4(水)

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