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春日 太一
映画史・時代劇研究家
We Live in Time この時を生きて
25/6/6(金)
TOHOシネマズ 日比谷
難病のために余命わずかとなった妻と、彼女に寄り添う夫の物語。演じるのはフローレンス・ピューとアンドリュー・ガーフィールド。となれば、お涙ちょうだいの定番の内容を若手スターふたりの人気にあやかって作った…という、いかにも安直な企画に観る前は思えた。 が、全くそうではなかった。安っぽい涙に走ることはない、なかなかに骨太な人間ドラマなのである。 まず、構成が素晴らしい。ふたりの出会い、出産、そして最期に向かう日々という3つの状況を時系列通りに並べず、それぞれ同時に進めていく手法なのだが、これが実に効果的。ひとつの時系列で生じた「なぜ?」がしばらくして別の時間軸で「そうだったのか」となり、「どうなる?」が「そうなるのか!」と繋がっていく。そのため、定番の設定でありながら、全く飽きがこない。観ている側に混乱を生じさせないよう緻密に組み立てられた編集技術やエピソード配置も見事だ。 そしてその向こうに見えてくるのは、どんな時でも不器用ながらも自分に正直に生きようとする女性の姿。だからこそ、彼女が最期を前にして選択した道の意味が、たまらなく感動的に伝わってくることになった。 また、観る前に偏見を抱いていたのは配役に関しても同じだ。 タフなイメージの強いフローレンス・ピューなだけに、難病役は合わないように思えたのだ。が、観終えてみれば、この上ない適役だと気づかされた。たとえ病魔に冒されようとも我が道を貫き通そうとする女性像役には、彼女はあまりにピッタリ。「フローレンス・ピューだからこその難病役」を確立してのけている。
25/6/4(水)