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水先案内人のおすすめ

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ユニークな選択眼!

春日 太一

映画史・時代劇研究家

親友かよ

仕事柄、映画作りを巡ってはドロドロした人間模様ばかり見てきた。いや、仕事を始める前からそうだった。自主映画も学生映画も、いけすかなさばかりが目についていたように思える。 そのため、プロ・アマを問わず、映画の制作現場をポジティブに描こうとする作品はどうも乗れないできた。また、そうした作品の多くは作り手たちの映画愛アピールや好きな作品へのオマージュがあからさまで、そこが鼻につくというのもある。 映画作りをするタイの学生を主人公にしているため、本作も当初は観るかどうか逡巡した。結論から言うと、観てよかった。今年上半期屈指の傑作だ。 ある高校生の書いたエッセイがコンテストで受賞するが、その直後に事故死してしまう。同級生の主人公はそれを映画化しようとする。本作が描くのは、その完成に向けて奮闘する姿だ。 設定が設定だし、実際そこかしこに映画マニアを喜ばせるような描写が挿入される。美談めいた結末に向かう予感もあり、前半は「なんだ、やはりこの手の苦手な映画か」と、あまり乗れずに観ていた。 が、後半になるにつれて一気にドライブがかかり、引き込まれた。 登場人物それぞれに秘密があることが徐々に明かされていき、それらが複雑に絡み合いながら展開は二転三転。先が全く読めなくなるとともに、この題材特有の厭な感じは完全に消える。それどころか、終盤の決着のため、あえてそう描いていたようにすら受け止められた。 物語は一度は美談的なハッピーエンドを迎えそうになるもそれをぶち壊し、最高に感動的なラストが待ち受ける。 映画とは誰のため、何のために作るのか。終盤は絶えずその問いかけが突きつけられる。そして、主人公が最後にたどり着いた結論は、心の底から納得できるものだった。

25/6/8(日)

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