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社会を映しだす映画をわかりやすく紹介
池上 彰
ジャーナリスト、名城大学教授
フロントライン
25/6/13(金)
TOHOシネマズ日比谷
この映画を観ると、「そう、そう、そうだった」と思い返すことの多いこと。と同時に、私たちはいかに忘れっぽいかと痛感します。 2020年2月3日、乗客乗員3711人を乗せた豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」が横浜港に入港します。船内では100人以上が新型コロナウイルスの感染の症状を訴えていました。 誰が患者を診察するのか。そこで出動を要請されたのが「DMAT」(災害派遣医療チーム)でした。彼らは全国各地の病院などで勤務する医師や看護師たちですが、基本はボランティアベースで緊急事態の医療を担当します。ところが当時、DMATの担当業務に「感染症対策」は入っていませんでした。でも、ほかに緊急に対応できる医療チームは存在しません。過去に経験したことのない未知の感染症患者の治療や医療機関への移送を彼らが担当することになりました。 もちろん一部に演出はありますが、当時私たちがうかがい知ることができなかった実話が描かれます。 患者ばかりでなく医療チームの家族が「バイキン」と言われて差別を受けました。子どもを保育所に預けることが拒否されることも起きました。仕方がないこととはいえ、日本社会の身勝手で排他的な醜い姿を思い起こさせます。 それでも、医療の道に進んだ者は、何のために自分たちはこの道に入ったのかを再認識するドラマは感動的です。 今後も大規模な感染症が流行したとき、私たちは、そして社会はどう立ち向かうべきなのか。それを問う映画なのです。
25/6/12(木)