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日本映画の新たな才能にフォーカス

イソガイマサト

フリーライター

青春ゲシュタルト崩壊

この世の中は生きづらい。みんな他人の顔色をうかがいながら、必死に壊れないように生きている。丸井とまとの同名小説をアイドルグループ「IMP.」の佐藤新と渡邉美穂のW主演で映画化した『青春ゲシュタルト崩壊』は、ヒロインの女子高生・朝葉(渡邉)が「水槽みたい」と唱える社会の縮図=学校でもがき苦しみ、それでも前を向く姿を生々しくも鮮烈なタッチで描いたビターテイストの青春ムービーだ。 小さな社会で自分を抑え、他人の要求ばかり受け入れる都合の“いい子”を演じ続けていると自分でも気づかないうちに歪みが生じてくる。自分を見失い、身体と心が悲鳴を上げ始める。原作ではそんなヒロインの危うい精神状態を自分の顔が認識できない「青年期失顔症」という架空の病気で表現していたが、本作ではその心の病を繊細に視覚化しているところが秀逸。期待の新鋭・鯨岡弘識監督が水槽で泳ぐ魚たちを「学校」という名のコミュニティのメタファーにしたり、シニカルな視線を随所に忍ばせているのも見逃せない。 実社会でも朝葉と同じところまで追い詰められながら、その苦しみや痛みを口にできなくて喘いでいる人たちはいっぱいいるはずだ。劇中に登場するバスケ部の顧問(水橋研二)に似た、自分の物差しや価値観ですべてを測り、相手の心象や状態を寄り添おうともしない輩も存在する。朝葉のクラスメイト・朝比奈(佐藤)が親友に発した励ましの言葉のように、何気ない一言が相手を追い詰めることもある。では、どうすればいいのか? その答えを、クライマックスの朝葉が自身の行動ではっきりと提示する。彼女と同じようなことで悩んでいる人は、自分の顔がちゃんと認識できているうちに本作を観るといいかもしれない。すべてが一気に解決とはいかないだろうが、解決の糸口が見つかるかもしれないし、勇気がちょっと出て、気持ちが少しは楽になるはずだから。

25/6/14(土)

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