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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
ルノワール
25/6/20(金)
新宿ピカデリー
11歳の小学生の女の子が主人公。2020年代のいまではなく、ネットもスマホもない時代で、テレクラが出てくるので、1980年代後半が舞台のようだ。 映画の半ば過ぎに、少女はルノワールが描いた少女の肖像画「イレーヌ」に関心を持ち、それを描いた画家の名前を知る。だからといって、ルノワールのような絵を描きたいと思うわけでもなく、ストーリーに、ルノワールは何の影響も与えない(ように見える)。なぜ、そのルノワールがタイトルなのか。そこに意味があるのかないのか。 主人公フキは、内向的だが行動的でもある。予測不可能な行動をとる。冒頭、「みなしごになりたい」という作文を書いて担任と母を困惑させる。父親はガンで長くないという状況で、それを彼女も知っている。母は働いているが、部下にきつくあたったせいで研修を受けさせられている。まだ「パワハラ」という言葉がない時代のようだ。 両親の夫婦関係はほぼ破綻しており、フキはそれも知っているようだ。英会話教室で仲良くなったお金持ちの女の子の家に招かれると、その家もかなり壊れている。フキはその欺瞞的な家族を、本能的になのか意図的になのか崩壊させる。テレクラで知り合った若い男性の家に連れて行かれたり、いろいろ危ない目にもあう。 フキはずっと無表情。彼女がどういう少女で何を求め、何を感じて、何を考えているのかは、彼女の口からは説明されない。フキの周囲の大人たちは、彼女が理解できないか、誤解している。彼女も自分を分かってほしいとは訴えない。そんな「何を考えているのか分からない少女」を、新人の鈴木唯が演じている。 この映画のかなりの部分は、鈴木唯が担っている。年齢的には子役の範疇なのだろうが、「無表情」をしっかりと演じ、鈴木唯がいなければ成立しない映画だ。この先、どんな俳優になるのか、ならないのかは分からないが、この映画での演技は残るだろう。 よく考えたら、11歳の少女(男子も)が何を求めて何を考えているのかなんて、自分を振り返っても、本人だって分からないものだから、分からなくていいのだろう。
25/6/15(日)