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春日 太一
映画史・時代劇研究家
突然、君がいなくなって
25/6/20(金)
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
濃密なアイスランド映画だった。喪失感と向き合うひとりの女性の心情が、短い上映時間に凝縮されている。 芸大に通うヒロインが彼氏と初めて結ばれた翌朝、その彼氏が事故死してしまう。突然の訃報を受けて揺れ動くヒロインの様子が描かれていくのだが、本作の妙味はその設定。実はふたりの関係は仲間内には知らせておらず、彼氏には地元に恋人がいた。その恋人に別れを言い出そうというタイミングでの事故だったのだ。 そのことが、本作を「恋人を失って悲しい」という程度の凡百のドラマにはない棘をもたらしている。ヒロインはその恋人を前に、「彼氏の友だち」として接する。そのため、自身も最愛の相手を失ったにもかかわらず、恋人を励ます側に回らざるを得ないのだ。自身も大きな喪失感を抱えながら、本心からの苦しみや悲しみを隠して取り繕わなければならない。 カメラは、そんな複雑な彼女の心情をひたすら追う。本作が素晴らしいのは、ヒロインの心情を追う上で、その表情を映すアングルがことごとく的確である点だ。その結果、繊細な心の動きがあますことなく伝わることになった。 アイスランドの雄大な景色と無機質な建物の醸し出す乾いた空気も、作品世界にマッチしている。
25/6/17(火)