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水先案内人のおすすめ

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歌舞伎、文楽…伝統芸能はカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

国立劇場 令和7年7月歌舞伎鑑賞教室

『色彩間苅豆』―かさね― 歌舞伎の怪談ものってなぜあんなに怖いのだろう。 まず、ぼんやりと暗い。 湿り気がすごい。 なので主人公の髪が細かく貼りついて乱れる。 動き方にどことなく違和感がある……などなどの共通点がありそうだ。  いきなり無差別に殺戮が行われるのではなく、そこに自分では何ともしようのない因縁因果が絡むのも歌舞伎の怖さの特徴かもしれない。あるいは感情の針が振り切れてしまい、もはや人ならぬものになった者たちの怖さかも……。 『東海道四谷怪談』や『怪談牡丹燈籠』『真景累ヶ淵』などはもちろん、怪談ではないが『盟三五大切』や『籠釣瓶花街酔醒』も人の愛憎がスゴすぎて恐ろしいことが起こる。なんなら『三人吉三巴白浪』の「吉祥院の場」も、薄暗くて因縁が絡み過ぎて背筋が寒くなる。 そしてこの『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)』、通称「かさね」は四世鶴屋南北の通し狂言『法懸掛松成田利剣(けさかけまつなりたのりけん)』の中の一幕で、清元の所作事だ。 この「かさね」という名前がもうすでに怖い。漢字にすると「累」。死屍累々の累だ。 『四谷怪談』の伊右衛門を思わせるような色悪の、スラリとした白塗りの与右衛門と、愛らしい腰元のかさね。この美男美女が両花道から出てくる。この出の時からすでに与右衛門はかさねを殺すつもりでいたのか、次第に殺すしかないと追い詰められたのか。振付や役者によって違うので見比べるのも面白い。さて今回はどちらになるだろう。 前半ではふたりの色模様を見せる。その形の一つ一つがため息が出るほど艶麗だ。なのに後半ではふたりの間の空気は一変し、与右衛門はかさねを殺そうとする。クライマックスの「連理引き」の表現が何しろ怖い。与右衛門が花道を逃げようとするが、どうしてもかさねの怨霊に引き戻されるのだ。さっきまで残酷な所業をしていた男なのになすすべがないのだ。 今月かさねを勤めるのは中村萬壽、与右衛門に中村芝翫。歌舞伎鑑賞教室のプログラムということで初めて歌舞伎を観る方も多いし、親子でご覧になる方も多いため、演出は多少変わるかもしれない。歌舞伎が表現する美しい怖さの凄みをたっぷりと味わってほしい。

25/6/21(土)

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