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映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
ルノワール
25/6/20(金)
新宿ピカデリー
「テーマを考えずに脚本を書いていきました」そう早川千絵監督はインタビューで答えていた通り、本作は90年代を舞台に少女が見つめる大人の不思議を綴った作品だ。11歳といえば小学校高学年。今よりも大人の監視は薄く、携帯もネットもない時代。あの時代、超能力者ユリ・ゲラーがテレビに出演し、日本では超能力ブームが巻き起こった。そんな懐かしい出来事がスクリーンに散りばめられるのだが、一貫して描かれているのは、“悲しみ”という感情を理解しようとしつつも自身は理解しきれない少女の“感情の探求”だ。 だからこそ主人公演じる鈴木唯の瞳が映画の力になる。飄々とした表情で、人の心の痛みに足を踏み入れてしまう無意識の無礼さや、多感な年頃ならではの好奇心が招く危険な世界を覗き込む行為が観客を静かにハラハラさせるのだ。それだけでなく彼女を取り巻く大人たちの行動は、不安から来る“弱さ”であり、子供から見れば不思議な行動なのだと映画から伝わってくるのだ。 サラブレッドは父親にとってはお金であり、少女にとっては神聖な存在。きっと少女は父親と過ごす時間が好きで好きで堪らないのだ。映画を観ているうちに自分の幼少期を思い出し懐かしい気持ちに包まれた。今はもう居ない父親の愚かさや彼なりの愛情を思い出し、苦笑いしながら劇場を後にした。
25/6/18(水)