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いまみるべき1本を毎日お届け!
映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
カーテンコールの灯
25/6/27(金)
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
なんと見事な脚本なのだろうか。なんと素晴らしいキャスティングなのだろうか。ウィットに富んでいながら悲しみと怒りを表に出す難しさをしっかりと捉えた本なのだ。冒頭では一体この家族に何が起こっているのか分からない。問題を起こす娘を持ってしまった父親の葛藤なのかと思いきや、そうではないのだ。それをセリフではなく、行動で見せていくテクニック。まさに映画的手法であり、“演劇がもたらす感情の解放”を知っているからこその物語だった。 あるシーンでは、抱き締めることが言葉よりも絶大なパワーを持っているのだと気付かされ、涙が勝手に溢れ出した。この監督と脚本家コンビの前作『セイント・フランシス』も女性特有の人生を歩む上での不安や怒りをシニカルに描きながら、同性愛だって「その人が幸せならばそれでいい」としっかりと伝えるエピソードを綴っていて大好きな映画だった。本作はそこから更に様々な状況の世代も環境も違う人々をグラデーションのように描きながら、人と人とが生み出すミラクルの美しさを映画として世界に届けていた。
25/6/21(土)