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日本映画の新たな才能にフォーカス
イソガイマサト
フリーライター
でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男
25/6/27(金)
TOHOシネマズ日比谷
2003年に福岡で起きた事件のことを覚えている人と、本作の原作となる福田ますみのルポルタージュ「でっちあげ 福岡『殺人教師』事件の真相」を読んでいる人以外は何も情報を得ずにこの映画と向き合った方がいいだろう。 小学校教諭の薮下誠一は、児童への体罰をその母親の氷室律子から告発される。さらに、その情報を嗅ぎつけた週刊誌の記者・鳴海三千彦(亀梨和也)の実名報道の記事で瞬く間に世の中は震撼。「史上最悪の殺人教師」となった薮下はすべてを失うことになるが……。 果たして何が真実なのか? 薮下に扮した綾野剛が、柴咲コウが演じる律子の証言に基づく冷酷非道の教師と「完全否認」を立証しようとする当時の彼を演じ分けて観客を撹乱していく。 だが、劇中の誠一の状況は悪くなる一方で、法廷でも常に劣勢。そんな状況を見つめるうちに映画を観ている私たちの感情も操作され、気づいたときには偏見に満ちた恐ろしいポジションで事件をジャッジしていたことに気づき、青ざめることになるのだ。 それにしても、巧妙に罠を散りばめ、観客に安全な場所に身を置き続けることを許さず、容赦なく問題の核心へと引きずり込む三池崇史監督と綾野剛、柴咲コウを始めとする演者たちにはしてやられた。人が悪いな〜と思いながらも、その周到さに脱帽。 ネットのニュースに踊らされ、裏もとらずに己の正義を振りかざす現代人にガツンと一撃をくらわす快作だ!
25/6/26(木)