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新たな気づきをくれるミュージアムを紹介

中山 ゆかり

ライター

ゴッホ・インパクト―生成する情熱

今年はファン・ゴッホの展覧会がいくつか開催される。そのひとつが、箱根のポーラ美術館で開幕した『ゴッホ・インパクト 生成する情熱』展。海外から招聘したゴッホ作品がずらりと並ぶ大型展も楽しみだが、こちらは作品とともに、ゴッホが同時代や後世の人々にどれほど強いインパクトを与えたのか、そしてそこからどのような新しい表現が生成されてきたのかを見せる展覧会だ。 西洋近代絵画の充実したコレクションを誇る館だから、西洋の画家たちの作品も沢山並ぶが、今回はまた日本に与えたインパクトにも焦点があてられている。37年の生涯で、制作時期はわずか10年。その間にパリで印象派と出会い、憧れの日本を思い描いて南仏に移住し、なんらかの葛藤から自身の耳を切り、精神科の療養所に入院し、最期はおそらく自死を選んだ。そんなゴッホの作品は、明治末期に白樺派が創刊した雑誌『白樺』で図版とともに紹介され、多くの洋画家がゴッホ風の作品を制作、またその終焉の地オーヴェール=シュル=オワーズに巡礼して、主治医のガシェ医師の家で作品を実見して感銘を受けた。白樺派が建設を望んでいた白樺美術館のために、《ひまわり》の1点も購入されている(残念ながら戦災で焼失した)。戦後になると精神科医で研究者の式場隆三郎が複製画によるゴッホ展を各地に巡回させて大人気を博し、伝記『炎の人』の舞台や映画、そして多くの書籍を通じて、ゴッホの波乱に富んだ生涯も広く紹介された。今の私たちのゴッホ観を築いたこうした積み重ねが、絵画作品や資料とともに明らかにされているのが同展の興味深いところのひとつだ。 もうひとつ印象深いのは、4人の現代作家の作品群。ポーラ美術館は近年、現代美術の紹介にも力を入れており、同展にも福田美蘭、森村泰昌、桑久保徹、フィオナ・タンのゴッホに関わる作品が登場する。およそ130年前にゴッホが発したインパクトは、今もなお続いているのだ。なかでも森村泰昌が自画像の歴史を追いかけた映像作品《エゴ・シンポシオン》からゴッホの章を抜粋した約7分の映像は、ゴッホとその支援者であった弟テオとの関係性と、ゴッホの自死を解釈したもの。今年開催されるゴッホ展のなかには、ゴッホとテオをはじめとした家族との関わりに焦点をあてたものもあり、合わせて見ると面白さがさらに深まるに違いない。

25/6/24(火)

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