フランス近代美術を語るうえで、ピエール＝オーギュスト・ルノワールとポール・セザンヌという2人の存在は欠かせません。三菱一号館美術館で開催中の『ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠』展では、印象派とポスト印象派、それぞれ異なる道を切り拓いた彼らの芸術的な軌跡と共鳴を、名作の数々を通して体感できます。 本展の魅力は、印象派とポスト印象派という異なる芸術的潮流の中で、それぞれがいかに自分の道を切り拓き、互いに影響を与え合ったかを、「肖像画」「静物画」「風景画」など主題ごとに明確に比較しながら展示している点にあります。ルノワールは職人の家に生まれ、陶磁器の絵付け職人を経て画家となり、温かな色彩と光をまとった人物表現で人々を魅了してきました。対するセザンヌは、南仏の銀行家の家庭に育ち、法学から画家へ転向。自然や静物、人物を色と形によって構造的にとらえ、理知的で新しい絵画世界を打ち立てました。 2人は1874年の第1回印象派展にともに参画したほか、同じモチーフ――身近な人物、水浴図、果物や花の静物画、自然の風景――を主題に選びながら、それぞれ独自のアプローチを発展させました。ルノワールが描く人物や果物は、温もりと親密さにあふれ、筆触と色彩が生き生きと踊ります。一方セザンヌは、同じ主題であっても色面と形態を丹念に積み重ね、画面に重厚なリズムと安定感をもたらしました。サント＝ヴィクトワール山の風景画に見られるように、自然を“組み立てる”ことで新しい芸術の地平を切り拓いたのです。 本展では、20世紀モダンアートのパトロンとして知られるポール・ギヨームの旧蔵品や、オルセー美術館の所蔵品など約52点が紹介されます。ピカソをはじめとした20世紀の巨匠たちが2人からどのような影響を受け、キュビスムや抽象美術が生まれていったかにも注目できます。さらに、セザンヌとルノワールそれぞれが同じモチーフを描いた作品が並んで展示されており、両者のアプローチの違いや共通点を、実際に比較しながら鑑賞できるのも大きな見どころです。 また、ルノワールとセザンヌの間には長い友情と尊敬、家族ぐるみの交流がありました。同じ時代を生き、共に芸術の近代化を志しながらも、異なる“解”に到達した2人。その違いと共鳴を、作品の並置によって直感的に体感できるのがこの展覧会の大きな魅力です。近代美術の核心に迫る必見の展覧会です。

25/6/28(土)