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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

スタントマン 武替道

世界的に最もよく知られているアクション映画の傑作『燃えよドラゴン』の名シーンのひとつ、ブルース・リーが「Don’t think. FEEL!(考えるな、感じろ)」と弟子の少年の頭をはたくシーンを覚えておいでだろうか? その少年を演じていたのが、本作『スタントマン 武替道』で主人公を演じるトン・ワイだ。 サブタイトルの『武替道』は、「ぶたいどう」と読み、「スタントの道」を意味する中国語。本作は、ジャッキー・チェン、サモ・ハンなどを輩出した香港アクション映画の隆盛を陰で支えたスタントマンたちの、奮闘の物語。製作したのは大ヒット作品『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』のアンガス・チャン。 トン・ワイは、先述の武術少年役で脚光を浴び、長じて『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』などに出演、アクション監督として香港電影金像奨最優秀アクション設計賞を7度受賞したレジェンド。彼が本作で演じるのは、かつての売れっ子アクション監督で今は映画界を去った伝説の元映画人サム。数十年前の若きサムはリアリズムを追求するあまり、危険なアクションを無理やり決行したために、ひとりのスタントマンを半身不随にしてしまう。今は業界を離れ、小さな整骨院を営んでいる彼に、昔の仲間から「もう一度アクション映画の武術指導をして欲しい」との依頼が舞い込む……という物語。 1970年から80年代にかけて数々の名作を輩出した香港アクション映画を、陰で支えていたのは間違いなくスタントマンたちだった。だがその長であるアクション監督は、「武術指導」とクレジットされるのみで、スタッフの一員に過ぎなかった(余談だが、その存在が脚光を浴び始めたのは、『マトリックス』における袁小田=ユエン・シャオティエンのワイヤー・アクションで、1990年代以降のこと)。 数十年ぶりにアクション映画の撮影現場に立つサム。だが今の映画業界は、効率性重視、コンプライアンス厳守。リアリティを追求するサムの独裁的演出にスタントマンや製作陣が反発し、現場はぎくしゃくし始める。その新旧の対立が、今の香港映画界の縮図のようで興味深い。サムが固執する、高いビルの屋上から飛び降りるワンカット撮影は、実現するのか……。 監督は、『ツインズ・ミッション』で映画デビュー後、スタントマン&俳優として活躍し、本作が初の長編となる双子のアルバート・レオン&ハーバート・レオン。昨年の『フォールガイ』同様に、映画ファンには見逃せない撮影現場の描写が多い、異色のアクション映画。ブルース・リーやジャッキー・チェンの偉業をしのびたくなる映画だ。

25/6/29(日)

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