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注目の若手指揮者がクラシック初心者も安心の公演を紹介

坂入 健司郎

指揮者

東京ユヴェントス・フィルハーモニー 第28回定期演奏会

指揮者という仕事は複雑です。 あまりにも順調にものごとが進むと、最悪のパターンをシミュレーションし始め、よくない状況に陥ると案外ポジティブなことばかりを考え始める…常に適切なバランスをとり、奏者の演奏しやすい環境を、二歩、三歩先に考えていると、ついついこのような「逆張りの発想」が、頭の片隅に同居してしまうのが指揮者の性というものでしょう。 19世紀末〜20世紀初頭を代表する作曲家、グスタフ・マーラーは、ウィーン国立歌劇場やニューヨーク・フィルハーモニック等を率いた世界的な指揮者でした。作曲に費やす時間は、シーズンオフの夏に避暑地で取り組むほか許されなかったのです。1901年11月、マーラーは19歳年下のアルマ・シンドラーに恋に落ち、1902年3月に結婚します。すでにアルマは19世紀末のウィーンの芸術家たちを虜にしたファム・ファタールでありました。そんなアルマを射止めたマーラーは、まさに欲しいものを全てを手に入れた、というような幸せの絶頂だったことでしょう。 ーーー初めてアルマと共に過ごす休暇となった 1902年の夏休み。オーストリアの避暑地、マイアーニックの別荘で作曲した交響曲が、彼の最高傑作と名高い交響曲第5番です。 ここで、最初の話に戻しましょう。”指揮者”マーラーは、この交響曲第5番を幸せの絶頂とは相反する世界観でこの作品を書き始めました。「結婚とは棺桶に片足を突っ込むこと……?」なんていう皮肉を体現するかのような『葬送行進曲』から幕を開けるのです。弔いの後の第2楽章は「生きる苦しみ」を描き、最後に一瞬の救いを見せて曲を終えます。 第3楽章はウィーン風のワルツが編み込まれた長大なスケルツォ。そして第4楽章で、ようやくアルマへの愛の告白が始まります。「指揮者の性」に抗って、マーラーが初めて感情に正直に書き残した恋文のような音楽と言えるでしょう。この第4楽章「アダージェット」は映画『ヴェニスに死す』でも使われたことで、爛熟した世紀末芸術を代表する作品となりました。 7月20日(日)にミューザ川崎にて、長年の盟友である東京ユヴェントス・フィルハーモニーと共にマーラー交響曲第5番を演奏します。前半には黒田 祐貴さんを迎えて、若き日の失恋体験を赤裸々に歌った「さすらう若人の歌」をお届けします。 近藤礼隆さんに委嘱した新作、「祝祭のためのファンファーレ」の世界初演もお楽しみいただける盛りだくさんのコンサート。ぜひ会場にお越しください!

25/6/28(土)

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