評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!
日本映画の新たな才能にフォーカス
イソガイマサト
フリーライター
アスファルト・シティ
25/6/27(金)
新宿ピカデリー
救急救命隊の仕事は凄まじい。事故や犯罪の現場に急行し、重症の被害者に的確な応急処置を行いながら受け入れてくれる病院を探し出し、そこに迅速に搬送する。そのすべてが1分1秒を争う時間との勝負で、それだけでも大変なのに、ニューヨーク市消防局(FDNY)の救急救命隊員たちは、そこにさらに最低最悪な環境で業務を遂行しなければいけないという負荷が課せられるのだから並の心臓では務まらない。 ニューヨークのハーレムは犯罪と暴力が蔓延る、世界で最も危険なエリアだ。ギャングの抗争やドラッグをめぐる銃撃戦、異なる民族同士の争いやDV、オーバードーズが耐えない。常に一触即発の空気が流れていて、緊急救命隊員たちが現場に到着しても道を塞いだり、ヤジを飛ばしたりするからスムーズに作業ができない。搬送も遅れがちになるから、ストレスもハンパない。 それでも尽力する新人救命隊員(『レディ・プレイヤー1』のタイ・シェリダン)とベテラン隊員(アカデミー賞俳優のショーン・ペン)の姿が圧倒的なリアリティと緊張感で生々しく映し出され、観ている私たちもあっと言う間に命の現場へと引きずり込まれる。 そして、クライマックスでは、自宅で早産した女性の新生児の処置をめぐり、命との向き合い方を改めて突きつけられることになる。だが、この過酷な業務に全身全霊で当たっている人たちは現実の世界にいて、いまも必死に戦っているのだ。それだけに、映画の最後に刻まれる深刻なデータが胸にズシリと重くのしかかる。彼らのケアは誰がするのか? 『フロントライン』(25)の医師たちの真の姿を知ったときと同じ感情や疑問が沸々と湧き上がった。
25/6/30(月)