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映画は、演技で観る!
相田 冬二
Bleu et Rose/映画批評家
私たちが光と想うすべて
25/7/25(金)
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
なまめかしい。 ということばは本来「あでやかで上品」という意味なのだが、「なまなましい」に語感が似ているせいか、どうにも「つややかな色っぽさ」みたいな印象が先行しているきらいがある。漢字で書くとさらにそういった雰囲気が強調されてしまうので、わたしは平仮名で押し通している。 なまめかしい。 という形容詞が本来有している趣を体現したような映画がインドからやって来る。 暮らしの機微も、誰かとの別れも、誰かとの再会も、待つときめきも、焦がれる情けも、すべて同じような価値のもと、たとえば小雨が降るように、ひっそりと、音もなく、綴れ織り、編み上げる、これはそんな作品だ。 にんげんの内面が濡れていることの真実を、理屈ではなく、体感として、言葉ではなく、風が吹くように、告白ではなく、こぼれおちるように、紡ぎ醸し出す。 対照的な姉妹のようなルームメイトふたりそれぞれの生活と感情を、劇性から遠く離れた、ただ波打つような自然の摂理と同期するように、切り取り提示していく一瞬一秒。 その風情は、芸術としてのたたずまいは、なまめかしいと形容するより他ないのである。
25/7/2(水)