水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

注目の洋画系配信作品をプッシュ

村山 章

映画ライター

カーテンコールの灯

3年前に日本公開された『セイント・フランシス』という映画をご覧になっただろうか? 俳優のケリー・オサリヴァンが主演と脚本を務め、パートナーのアレックス・トンプソンが監督をしたインディーズ映画で、いささかだらしない34歳女性の等身大の本音を散りばめた珠玉のヒューマンドラマだった。 そのオサリヴァンとトンプソンが共同監督を務めた新作が、現在公開中の『カーテンコールの灯』。家庭に問題を抱えた偏屈な中年男が、ひょんなことから地域コミュニティーの演劇に参加することになり、あろうことか「ロミオとジュリエット」の主演に抜擢される!という物語である。 芝居の相手役としてジュリエットを演じる中年女性を、『逆転のトライアングル』で注目されたフィリピン出身のドリー・デ・レオンが演じていることを除けば、本作のキャスティングはほとんど見たことのない超地味な顔ぶれだろう。しかし、どこにでもいそうな実在感があるからこそ、このささやかだが滋味深い物語には大きな説得力が宿り、大きなフックがあるわけではないのに心の奥底を震わされてしまう。 ちなみに主人公の建設作業員を演じたキース・カプフェラー、妻役のタラ・マレン、思春期で扱いにくい娘に扮したキャサリン・マレン・カプフェラーは本物の夫婦であり親子でもある。だから家族の演技がリアルだと言ってしまうのは彼ら名優たちに失礼だが、本作の類まれなる実在感もなるほどと思わせられる裏話ではある。 地味で無名であることは映画興行としては不利でしかないだろうが、これだけ傑出した人間ドラマに出会えるのはマジで貴重。ぜひ映画館に走っていただきたい。

25/7/5(土)

アプリで読む