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日本映画の新たな才能にフォーカス
イソガイマサト
フリーライター
この夏の星を見る
25/7/4(金)
TOHOシネマズ日比谷
マスコミ試写は連日満席。えっ、何でそんなに人気があるの? と半信半疑だったが、観てビックリ! 爽やかな風を運ぶ紛れもない青春ムービーの傑作だった。 いや、直木賞受賞作家・辻村深月による原作小説の素晴らしさももちろんあるけれど、本作には2020年、コロナ禍で青春時代のかけがえのない時間を奪われてしまった中高生たちの生の息吹きが、同じ閉塞感を共有する若き役者たちの肉体によって見事に焼きつけられていて、そこに驚かされたのだ。 しかも、東京の渋谷、茨城県の土浦市、長崎県の五島市といった異なる環境で生活し、あのとき、それぞれ違ったやるせなさを味わった十代のリアルを並列に過不足なく表現。茨城県の高校の天文部で活動するヒロインの亜紗に扮した桜田ひより、打ち込めるものが見つからない東京の中学生・真宙を演じた『国宝』(25)の黒川想矢、複雑な立場に追いやられる五島列島の旅館の娘・円華を体現した『PERFECT DAYS』(23)の中野有紗らが、それぞれの人物としてちゃんと生き、嘘のない感情をほとばしらせていたから、ぐいぐい引き込まれていった。 そして何よりも圧巻だったのは、別々の場所にいる彼らの想いが、星を見る……つまりは、上を見るという行為によってひとつになるところをちゃんと視覚に訴える映像で表現していたこと。喪失感に屈せず、それを希望に変えていく少年少女の逞しさと輝きを肯定しているところに魅了されたのだ。 それにしても、監督の山元環も脚本の森野マッシュもこれが劇場長編映画デビュー作というのだから驚く。彼らの今後にも期待したい。
25/7/5(土)