水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

日本映画の新たな才能にフォーカス

イソガイマサト

フリーライター

愛されなくても別に

今年は目を見張る青春ムービーが次々に公開されているが、本作もそのうちの1本だ。 母親の「愛している」という言葉に縛られ、浪費家の彼女のためにほとんどの時間をコンビニでのバイトに費やしている陽彩(ひいろ)。父親から性暴力を受け、母親からは売春を強要される雅(みやび)。過干渉の母親から逃れるように新興宗教にのめり込んでいく水宝石(あくあ)。毒親のもとで生まれ育ち、そんな絶望の淵にいる3人の大学生を描いた武田綾乃の同名小説の映画化だが、彼らと同じような環境下で喘いでいる青少年は間違いなくこの現実の世界にもいるだろう。 そう自然に思えるのは、陽彩を演じた南沙良と雅役の馬場ふみか、水宝石に扮した本田望結がそれぞれの眼差し、必死さと佇まいでそこで生きているから。彼女たちは基本的に多くを語らない。でも、ふとした仕草や顔の陰り、距離感などでどんな気持ちでいまいるのかが何となく伝わってくる。 そんな女優陣の化学反応を見るのも本作の楽しみ方のひとつだが、そこでは彼女たちの気持ちが自分のことのように分かる弱冠29歳の新鋭・井樫彩(『あの娘は知らない』)の繊細な演出が冴えわたる。この人にしか撮れないものが確かにここには映っている。若き異才が望まない愛からサバイブする3人をどこに導くのか? その答えが、いまを懸命に生きている人たちの背中をそっと押すことになるかもしれない。

25/7/6(日)

アプリで読む