評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!
取材経験豊富な記者の目でセレクト
平辻 哲也
映画ジャーナリスト
逆火
25/7/11(金)
テアトル新宿
映画業界は常に大きなリスクと隣合わせだ。出演俳優や監督がトラブルを起こせば、映画は公開延期、最悪、公開中止にもなる。実際、そんな例は山ほど見てきた。 内田英治監督の新作は、そんな映画ビジネスの裏側を鋭く切り込む社会派サスペンス。 ARISA(円井わん)は、貧困と親の介護を乗り越え、亡き父の保険金を元手にビジネスで成功。彼女の伝記はベストセラーとなった。そんな感動ストーリーを映画化しようとしている撮影チームで、助監督を務める野島(北村有起哉)は、ARISAの経歴に疑問を持つ。野島は通信社の記者から転身し、監督を目指して映画界に飛び込んだ異色の経歴の持ち主。調べれば調べるほど、真実には程遠い事実が明らかになっていく……。 内田監督が原案、『サイレントラブ』のまなべゆきこが手掛けたオリジナル脚本が秀逸。業界の虚飾や道徳の形骸化を問い、主人公や撮影チームの最終決断に目が離せない。北村は、理想と現実の間で葛藤する主人公を生々しく体現し、強烈な存在感を放つ。一方、円井わんが演じる“悲劇のヒロイン”は、真実と虚構の狭間で不穏な魅力を漂わせる。野島には高校生の娘の素行トラブルも抱えており、仕事と家庭の両方で究極の選択を迫られていく。 本作は、小規模なバジェットの作品だが、力強いストーリーを持っている。クリント・イーストウッドの最新作『陪審員2番』に近いテーストを感じた。バックステージを描いた作品には苦手意識があったが、本作はリアルな語り口でその印象を覆された。芸術とビジネスのはざまで揺れる映画業界の現実を突きつける。
25/7/12(土)