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平辻 哲也

映画ジャーナリスト

ウナイ 透明な闇 PFAS 汚染に立ち向かう

発がん性が指摘される有機フッ素化合物による水質汚染の実態は、『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』(2019、トッド・ヘインズ監督)に描かれている。これはマーク・ラファロ演じる弁護士が汚染源であるデュポン社に対して法廷闘争を挑む秀逸な社会派ドラマだった。 これは“海の向こうの問題”だと思っていた。だが本作は、2016年に沖縄の水道水からPFAS(有機フッ素化合物)が検出されたという衝撃の発表から9年──。この見えない脅威「PFAS汚染」に立ち向かう女性たちの姿を追ったドキュメンタリー。

 監督の平良いずみは、生まれたばかりの息子に汚染水でミルクを与えていた経験から、「絶対、許さない」という思いを原動力に本作を作り上げた。監督は、本当に執念深い。日本だけでなく、アメリカやイタリアでPFAS汚染と闘う女性たちの姿を映し出す。ウナイとはウチナーグチ(沖縄語)で、「姉妹」の意味。女性たちの共闘、シスターフッドの物語である。その姿には何度も涙した。 沖縄での汚染源は米軍基地。日本では「知見がない」「基準がない」と調査すら進まないが、その背景に原爆製造と戦後の日米地位協定があることを、監督は鋭く指摘する。 沖縄の女性たちは、住民運動では世の中を変えられないと気付き、町議会選にも挑む。しかし、その後も政治の壁が厚く立ちはだかり、厳しい現実を突きつけられる。 これは、女性たちだけの問題ではない。全ての人が観て、知って、声を挙げるべきだと強く感じた。知らないでは済まされない。まずは選挙に行くこと、それが最初の一歩だと強く思わされた。

25/7/14(月)

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