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スリル&サプライズ映画の専門家

高橋 諭治

映画ライター

ストレンジ・ダーリン

これが日本初登場となるJ・T・モルナー監督が放った長編第2作は、ふたつの意味で“挑戦的”なアメリカン・スリラーだ。 ひとつめの挑戦は、物語の時系列をシャッフルさせた大胆な語り口にある。獲物を狙う殺人鬼と、必死に逃げる者の攻防を描いたプロットはごくシンプル。それなのに全6章の「第3章」を最初に配置することで、話がどう転ぶのかまったく予測できないスリルが生まれる。その効果たるや絶大だ。 ふたつめの挑戦は、私たち観客に向けられている。「あなたはシリアルキラーが出てくる映画が大好きですよね。でも、こんなスリラーを観たことがありますか?」。モルナー監督は巧妙なサプライズを仕掛け、このジャンルにおける観客の固定観念を揺さぶってみせるのだ。 加えて、鮮やかな発色の35ミリフィルムのフォーマット、叙情的なフォークソング、何の変哲もない田舎の風景などが渾然一体となった映像世界は、独特のトーンと肌触りを獲得している。生々しいバイオレンスと甘美な不条理性が混じり合ったこんなスリラー、滅多にお目にかかれない。

25/7/14(月)

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