水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

演劇鑑賞年300本の目利き

大島 幸久

演劇ジャーナリスト

国立劇場 令和7年7月歌舞伎鑑賞教室

清元の舞踊劇『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)』、通称“かさね”が国立劇場の制作公演で上演される。“夏芝居の名手”四世鶴屋南北による、何とも気味が悪くなり、恐ろしい怪談物で知られる。人間の本性が剥き出しとなるその怖さが見どころだ。 主人公は2人。武士の与右衛門は実は久保田金五郎という名の悪人である。女色、出世、美醜差別を犯して欲望を突き進めてきた。どうです、本物の悪党でしょう。演じるのは中村芝翫。もう一人が、累(かさね)という女。与右衛門の情人となったのも、また、女の飽くなき恋心。嫉妬に取りつかれて、末は与右衛門の欲望の犠牲となってしまう美しい腰元だった。中村萬壽が扮する。 南北劇の複雑で奇怪なのはこれから。与右衛門は累の母と密通、父の助を鎌で殺していた。「思いとも心も人に染まばこそ恋と夕顔夏草の……」。清元の名曲が流れる中、やがて夏の夜の雰囲気。舞台である木下川(きねがわ)堤に流れ着いた髑髏には先の鎌が刺さっている。与右衛門が取り上げ、引き抜くと累は醜い姿となる。父の怨念だった。本性を現した与右衛門は鎌で累を殺すのである。 大正九(1920)年、六世尾上梅幸により復活し、十五世市村羽左衛門とのコンビは名舞台だった。怪奇な物語が折り込まれ、グロテスクで悲痛な主人公。猛暑が続く今、背筋が凍るようなピッタリの夏芝居だ。

25/7/15(火)

アプリで読む