水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

演劇鑑賞年300本の目利き

大島 幸久

演劇ジャーナリスト

TRASHMASTERS vol.41『廃墟』、vol.42『そぞろの民』

劇団TRASHMASTERSが25周年を迎えた。よく、頑張った! 主催者・中津留章仁はその記念公演に捻りを加えた。挑戦する演劇人の心意気だろう。 これまで自作を主に押し立ててきた。社会派と言われる骨太の人間ドラマをこれでもかとトコトン追求してきた。今公演は珍しく2本立て、加えて1本は三好十郎・作『廃墟』というもはや忘れられようとしていたような戯曲を取り上げた。ここに彼の仕掛けと「志」がある、と見た。 時は敗戦直後、全てに貧しい東京の廃墟に身を寄せている柴田一家の一室。この家族が主人公だ。“先生”と呼ばれる父親・欣一郎は歴史学者。妻は亡くなっている。長男・誠、次男・欣二、次女・双葉が生活しているところへ、学生の清水八郎が話し込んでいた。この会話、というよりか論争のようになっている。 三好は柴田を自身に重ねたのだろうか。戦争観、敗戦という現実。それぞれの思い、それは歴史観、思想観に到るから批判も始まるのだ。この作品上演は挑戦だという中津留の「志」に繋がるテーマなのである。出演者に劇団員の長谷川景、倉貫匡弘、川﨑初夏、小崎実希子、星野卓誠、加えて青年劇場の北直樹、文化座の小谷佳加らが参加する。 『そぞろの民』は平成27(2015)年に初演された中津留の作・演出。先の『廃墟』にインスピレーションを受け、参考にした作品だ。安保保障関連法案が可決した夜、自ら命を断った父の通夜に一家が対話する。父親は何に追い込まれたのか? 出演陣は『廃墟』と同じ劇団員5人と民藝のみやざこ夏穂、俳優座の千賀功嗣、そして中嶋ベンが友情出演。戦争とは、尊厳とは——。戦後民主主義を今一度考える公演となる。

25/7/17(木)

アプリで読む