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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
木の上の軍隊
25/7/25(金)
新宿ピカデリー
最初の30分ほどは、たくさんの人が登場する戦闘シーンだが、その後の90分ほどのほとんどは、堤真一と山田裕貴のふたりしか出てこない。原作の戯曲には冒頭の戦闘シーンはないそうだ。 舞台となるのは沖縄の伊江島の大きなガジュマルの木とその周辺だけで、登場人物はふたりだけ。いかにも舞台劇っぽいのだが、予想以上に映画としての奥行きと、躍動感がある。舞台をそのまま撮ったようなものとは、まったく違う。 ふたりだけの世界での2年の歳月が流れる。ふたりそれぞれの内面の変化と、ふたりの関係の変化が描かれる。 堤真一は本土から来た少尉、山田裕貴は伊江島で生まれ育った新兵という上下関係にあるだけでなく、本土の人と沖縄の人という、二重の対立関係のなかにある。互いにどんな人間なのかよく知らない。それなのに、ふたりだけで生き抜いていかなければならない。互いに不信感を抱き、しょうがないから一緒にいる。そして、いつしか分かり合い友情と信頼関係が生まれ、とはならない。 タイトルに「軍隊」とあるように、ふたりしかいなくても、それは軍隊であり、そこには階級がある。 極限状態にいるので、それぞれどこか「おかしく」なっていく。突然、おかしくなるのではなく、少しずつおかしくなる。その微妙な変化の積み重ねを、主演のふたりは淡々と演じている。 この映画にあるのは軍隊の「愚かさ」だが、それを、声高に押し付けるのではない。だからこそ、説得力がある。
25/7/16(水)