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芸術・歴史的に必見の映画、映画展を紹介
岡田 秀則
国立映画アーカイブ主任研究員
ジャン=リュック・ゴダール《感情、表徴、情念 ゴダールの『イメージの本』について》展
25/7/4(金)~25/8/31(日)
王城ビル
新宿歌舞伎町とジャン=リュック・ゴダール。なんという組み合わせ…。あの喧騒の中に今も立つヨーロッパの古城を模した建造物の中で、ゴダール最後の長篇作品『イメージの本』(2018)を映像インスタレーションに組み直した展覧会が始まった。キュレーションは2010年代以降のゴダール作品を支えた撮影監督ファブリス・アラーニョで、すでにニヨン(スイス)やベルリンなどでも開催されている。 2階から4階まで、3つのフロアに裏面にも光を通す特殊なスクリーンがいくつも張りめぐらされ、『イメージの本』で聴こえていた重低音も所々で鳴り響いている。同じ映画の同じシーンが、少しずつタイミングをずらして映っている場所もある。それらがやや廃墟感のあるこのビルに収まると、独特の洞窟的な魅力を放ち始める。その意味では、散策的に歩を進めながら映像群に出会うのもよいが、やはりいくつかの場所に腰を据えてソン(音)とイマージュ(画)に対峙した方が意義深いだろう。 ただ、ゴダールが『イメージの本』という映画に込めた5つ+1のコンセプト自体が、鮮やかなインスタレーションの狭間でやや埋もれてしまった感がある。『イメージの本』にはゴダール最後の戦争論があり、映画における列車表象の再検討があり、アラブ世界への新たなアプローチがあった。より深い体験とするため、いくらかの予習をして会場へ向かうこともお勧めする。8月31日まで。
25/7/18(金)