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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

木の上の軍隊

戦争を知らない人はどれくらい居るのだろうか。かくいう私も父や母の幼少期の思い出として、疎開の話や当時の教育について聞いたくらいで、戦争体験者の祖父も早くに亡くなり、叔父も戦死している。学んだのは本や映画、ドラマ、ドキュメンタリーからだ。それでも戦争が起これば、命が軽んじられ、差別や人権軽視が起こることは理解している。だから戦争を起こしてはいけないのだが、下の世代にどう伝えればいいのかと思った時に、戦争を正当化する為の「洗脳」や「軍事教育」について分かりやすく描いた本作を鑑賞した。 木の上に潜み、敵兵に見つからないように生き続ける少尉と新兵。堤真一演じる少尉は、日本男児の在り方や軍人としての生き様を教育で植え付けられた男。一方の山田裕貴演じる新兵は、生きることに必死で死に恐怖を抱いている男。上下関係が存在する年齢の違うふたりだけで長期間過ごしていれば、考え方の違いが顕著に現れる。このストーリーラインの妙から舞台は話題となったのだろう。それを実際に彼らが存在したと言われる地を再現するように、沖縄のガジュマルの樹上で撮影を行ったのは意義深い。 なにより、沖縄県出身の俳優を多く起用し、沖縄県出身の若い監督・平一紘がメガホンを持ったことで、第二次世界大戦で日本唯一の地上戦を体験した県民の悲しみや、今も抱える問題が浮き彫りになっていく。戦争により一般人も犠牲になった現実を描き、そのせいで心に深い傷を負った新兵の心情を会話劇で見せる映画は、戦争に興味がない若者にも理解しやすく、考えるきっかけを与えてくれるに違いない。

25/7/19(土)

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