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ユニークな選択眼!

春日 太一

映画史・時代劇研究家

スタントマン 武替道

以前にも書いたが、映画撮影の裏側の話を「映画愛」を軸に展開させる作品は、どうも好きになれない。どうしても仕事柄から「そんな甘い話じゃないぞ」という冷めた目で接してしまいがちになり、作り手の「愛」に鼻白んでしまうからだ。 そのため、香港アクション映画の現場でのスタントマンたちの姿を描いた本作も、なんとなく観る気がしないでいた。が、観てよかった。大傑作だ。 アクション映画の全盛期に命がけの撮影で鳴らしたものの、今は一線から遠ざかっているアクション監督が主人公。かつての盟友である監督が低予算の引退作品を撮るにあたり、現場に復帰するところから物語は始まる。 主人公は変わり果てた現場の様子を目の当たりにしながらも、我流を通す。が、そのために現場で軋轢が生じてしまう──。 本作が素晴らしいのは、映画の現場をパラダイスかのように描いていない点だ。面白さか人命か、責任の遂行か家族か。そうした現実を耐えず突きつけつつ、それでも離れることのできない「現場の魔性」を浮かび上がらせる。 また、主人公の存在を無批判に是とする懐古趣味に陥っていない点にも好感。魅力的なシーンを撮るために人命を軽視し続けてきた結果としての十字架も、ちゃんと背負わせている。 だが、最終的には最高にホットな気分にさせてくれた。それは「香港のアクション映画の灯を消したくない」という作り手の熱い想いに打たれるからだ。その流れからの主人公がラストに採る選択は、「そう来たか!」と感服。「なんだ、結局は『蒲田行進曲』か」と思わせて、その予測を遥かに超えてくる。

25/7/24(木)

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