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中山 ゆかり
ライター
藤田嗣治 絵画と写真
25/7/5(土)~25/8/31(日)
東京ステーションギャラリー
20世紀前半に国際的な評価を得た日本人画家の代表格・藤田嗣治。大型の個展が度々開催されているが、代表作を多数集めるのとは別のかたちで藤田に迫る展覧会が、東京ステーションギャラリーで開催されている。「写真」にフォーカスする初の藤田展だという。 おかっぱ頭に丸眼鏡、奇抜なファッションに猫。写真であれ、自画像であれ、ポートレートを使って自身のイメージを流布している印象はこれまでもあったが、今回のように様々な写真家による凝った設定の写真がたくさん並ぶと、異国の地フランスで、あるいは帰国後の戦前の日本で、自身がどのように見られたいのか、その「見られたい自分」を藤田がいかにプロデュースしていたかが見えてくる。これはもうやりすぎではないかと思う写真もあるけれど、戦略を練りに練ったであろうその強い意志と才覚にはやはり感嘆しないではいられない。 今回、特に面白かったのは、藤田が写した写真だ。もともとカメラを愛用していた藤田は、1930年代から40年代に世界と日本の各地を旅した際にも現地で多くの写真を撮っていた。今はフランスのメゾン=アトリエ・フジタに収蔵されているその約2000枚の写真を、今回の展覧会を共同企画している4館の美術館の学芸員が徹底調査した結果、藤田が色々な写真の人物や風景を組み合わせて構成し、1枚の絵をつくりあげていることがよくわかったという。そうして生まれた実物の絵と写真を見比べると、一致する部分と変えている部分も見えて、画家の意図についても考えさせられる。 もうひとつ、戦後の藤田がヨーロッパで撮ったカラー写真も大きな見どころだ。明暗で画面を組み立てるモノクロ写真に対し、カラー写真は色彩の構成力を必要とするが、画家である藤田は、そもそも色彩に対する感覚にも構成力にも優れていた。感銘を受けた写真家の木村伊兵衛が雑誌で紹介すると、その色彩表現は日本の写真界でも高い評価を受けたという。今回はプリントの展示のほか、スライドの映写もある。ちょっとした街角や普通の人々を写した写真の色彩、光、構図、風情はとても魅力的で、映写機のすべてのスライドを見たくなるのはほぼ間違いない。晩年の珍しい写真などもあり、盛りだくさんの内容で、新たな角度から藤田に出会える展覧会となっている。お時間に余裕をもってどうぞ。
25/7/26(土)