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小さくとも内容の豊かな展覧会を紹介

白坂 由里

アートライター

彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術

オーストラリア先住民アボリジナルにルーツを持つ、国内外注目の女性アーティストたち。7名の作家と1組のコレクティブとはいえ、各作家の出身地も広範な、複数の女性作家に焦点を当てた日本初の展覧会だ。 2008年の国立新美術館での個展も素晴らしかったエミリー・カーマ・イングワリィの絵画は、西洋美術とはまた異なる抽象性で評価が高い。ただしそのモチーフは、ヤムイモをはじめ、アボリジナルの生活や儀式などにまつわる具体的な対象である。カンヴァス作品以前のバティック(ろうけつ染め)は、土地返還運動に成果をもたらした、土地とのつながりを示す証でもあるという。 一方、都市を拠点とするイワニ・スケースは、微量のウラン酸化物が混じった42個のガラス彫刻が、ブラックライトに照らされると紫外線に反応し、緑色に発光するインスタレーションを展開している。作家の故郷はウラン採掘地域にあり、冷戦期には英国の核実験場にも利用された。周辺に住むアボリジナルの人々に甚大な健康被害を与え、現在も立ち入り禁止になっている。その核兵器の名を冠したガラス彫刻とともに、世界の現況にも警鐘を鳴らしている。 展示室の最後を飾るマーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリは、イングワリィ同様、老年期を迎えてから何千点もの絵画を制作したそう。ということは、展示されているのは一握りの代表作ということかと思うが、その切実さ、迫力に圧倒される。会場全体に複数の声が響き渡っているような展覧会で、感銘を受けた。

25/7/29(火)

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