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名画座女子の極私的旧作邦画セレクト
のむみち
名画座かんぺ発行人
羽仁進レトロスペクティブ 映画を越境するII
25/8/2(土)~25/8/15(金)
シネマヴェーラ渋谷
2017年に第一弾が開催された際上映された19本に、前回のラインナップには入っていなかった未公開新作『遥かなるPARADISE』(2015)と『予言』(1982)の2本を加えた計21本を上映。『遥かなるPARADISE』は、監督自身がナレーションを務めかつ出演もしているという、アフリカでの50年にわたる撮影記録を新たに編集したもの。本作上映前には、羽仁進本人による約4分の作品紹介メッセージ映像(つい数週間前に撮影されたそうで、監督の現在のお姿が!)の上映もございます。もう一本の『予言』は、米国公文書館に眠っていた原爆投下直後の映像を、市民の募金で10フィートずつ買い取る運動「10フィート映画運動」により制作された作品。核の恐ろしさを知らしめる本作は、戦後80年のこの年に、そして核武装の可能性をちらつかせる政党が躍進する大変な政治状況である今、観られるにふさわしい一本だと思います。ちなみに、同運動では羽仁進によりもう1本『歴史=核狂乱の時代』が作られておりますが、こちらは残念ながらフィルムの所在が不明で今回は上映できなかった、とは内藤支配人談。また、8/11(月・祝) 9:40より、一度だけ特別上映される『〈表情1970〉』は、70年万博での「タイム・カプセルEXPO’70」の一環で、高度経済成長期の日本社会を映した記録映画とのこと。この大変貴重な上映、羽仁進ファンのみなさまにおかれましてはどうぞお見逃しなきように!(チケット争奪戦必至か……!? ) ドキュメンタリー作品の評価も高い羽仁進ですが、フィクション作品で個人的に偏愛しているのは『充たされた生活』と『彼女と彼』です。この2本に関しては、以前このコーナーで取り上げておりました。せっかくですので、以下に再掲させていただいちゃいます。ご参考までに。 ↓ 『充たされた生活』 有馬稲子がメンバーでもある「にんじんくらぶ」製作作品であり羽仁進監督作品。虚しい結婚生活を送る新劇女優の有馬が女の本当の幸せを求めて生き方を追求していく様を描く。何はさておき有馬稲子の美しさに限る。ほとんどノーメイクらしいが、だからこその可愛さ。撮影は写真家の長野重一でオールロケということもあり、さながらドキュメンタリーかのような映像が素晴らしい。さらに、雑踏の音など臨場感ある録音にも注目を。翌年同コンビで作られた『彼女と彼』同様、武満徹の音楽とも相性バツグンです。なお、有馬は、自ら原作者の石川達三から映画化権を獲得、相当な気合いで取り組み、ラッシュ時にこれは傑作と確信。ところが完成試写では中盤30分ほどがカットされていたといい、相当ショックを受けたらしい。がしかし、後年公開版を再見した際、有馬自身「思ったほど悪くないわネ」と思った、といつかのトークショーで話されていた。いやいや、思ったほど悪くないどころか傑作です!(完全版を観てみたくはありますが) 『彼女と彼』 ドキュメンタリー作家として監督デビューした羽仁進の『不良少年』『充たされた生活』に続く劇映画3作目。武満徹の音楽と「岩波写真文庫」で活躍した写真家でもある長野重一の撮影が素晴らしい。百合丘団地に住む中流階級の人びとと、隣のバタヤ集落との対比を、中流階級の主婦という枠の中に収まることに抵抗のある主人公・直子(左幸子)の心の動きを軸にして描いた、社会派ドラマです。枠から出ようとする直子と、築き上げた枠を守ろうとする夫(岡田英次)との意識のズレの描写が無意識で残酷。階級とは、差別とは、善意とは何か。考えさせられます。バタヤ集落で屑屋をしている伊古奈役の山下菊二(現代画家)の存在感がスゴい。「団地映画」としても一級品です!
25/7/28(月)