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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

キムズビデオ

1980年代中盤だった。まだ中学生の私が洋楽レコードをレンタルする楽しみを知ったのは近所に突如登場したYOU&Iという店のお陰だった。幸い映画に関しては地元にキネカ大森という日本初のシネコン(1984年、今のように大きなシネコンではない)が立ったことで、子供料金で毎週、通えていたし、小学生の頃から有楽町や新宿でも映画を観られていた。 やがて高校の近くにある名画座で旧作とも出会えるようになるのだが、心踊らされた作品の監督や俳優陣の過去作への探究心は止まることなく、近所にオープンした個人経営のビデオレンタル店に足繁く通うことになる。そうだ。レンタルビデオ店は、古本屋のように狭い空間で一瞬にしてタイムスリップさせてくれる私にとって夢のような空間だった。しかも当時、同じ体験をした人々が映画に関わっていることを日本の映画界で働いていると実感する。それは海外でも同じで、本作の監督たちは元レンタルビデオ店の会員であり、さらなる映画との出会いを求めて足繁く通っていた常連客だった。ニューヨークに存在したマニアックなレンタルビデオ店に集められていたお宝ビデオ達の行方を追うドキュメンタリーは、映画マニアらしく“比喩”が映画のタイトルだ。映画の世界に夢中になったことをトビー・フーパーの『ポルターガイスト』の少女がテレビに釘付けになるシーンを挿入して喩えたり、ビデオと一体化してしまいそうな感覚をデヴィッド・クローネンバーグの『ヴィデオドローム』でジェームズ・ウッズがビデオに吸い寄せられるように見つめるシーンを映しながら語ったりと、劇中には多くの名画の名シーンが散りばめられてた。 面白いのは、このドキュメンタリーがただ状況を見つめるではなく、マイケル・ムーアのように監督の意思によってどんどん状況が変わっていくという点だ。しかも映画ファンらしく、実写映画で時々、使われるファンタジーのような展開をドキュメンタリーなのに迎えてしまう。それがまた愛おしい。どれだけ映画製作陣をリスペクトしているのだろうか。うっかり忘れがちだったが、映画はビデオやDVDになった時点で視覚的にも形となり、製作陣の想いが詰まった宝物になったのだ。これに気付かされ、後半、涙がこぼれそうになった。

25/8/6(水)

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