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映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
入国審査
25/8/1(金)
新宿ピカデリー
ひとりは映画ジャーナリスト、もうひとりはコピープロデューサー、映像が好きなふたりだが、新人監督としては年齢は上で40代。しかしながら、今までの人生経験が活かされた本作は、治安の悪い国と言われるベネズエラ出身の彼らにしか撮ることが出来なかったテーマであり、人間心理を駆使した脚本のアプローチだった。人により経験したこともある海外旅行での「入国審査」。飛行機から降り立ち、パスポートを提出していざ、他国へと進もうとした途端、足止めを喰らう。 このエピソードがまさかの長編映画として成立するとは。しかもそこからは密室劇。審査上、このカップルに様々な質問が投げかけられるのだが、パートナーの裏の顔まで知る羽目になるというサスペンス映画へと発展する。実は本作の凄いところは、彼らの本音を探る審査官の立場でカップルを見ていた私たち観客が、やがて尋問される側の気持ちになって、「自分ならどんな決断を下すか」を考えてしまう脚本作りにある。それだけでなく、その時に自分の中に潜んでいた偏見にまで気付かされてしまう映画なのだ。 密室で追い詰められた主人公の動向に観客が怪しんでしまう緻密な演出。外部の音が感情を苛立たせ、緊張感を煽る。狭い空間に閉じ込められた彼らの恐怖心が視覚と聴覚で立体的に感じられる映画なのだ。ラスト、あなたはどう見るか。この上質なサスペンスで暴かれるのは、主人公の闇ではなく、観客となった自分自身の闇かもしれない。
25/8/5(火)