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映画は、演技で観る!

相田 冬二

Bleu et Rose/映画批評家

何も知らない夜

いきなり、山形国際ドキュメンタリー映画祭2023の真打ち登場、の趣。 切実だけど戦略的。 詩情にあふれながら醒めている。 段階の異なる要素を闊達に行き来しながら、それぞれに感応し、統合していく編集技が卓越。モノクロベースだが、パートカラーの差し色も見事。 パヤル・カパーリヤー監督、来日してほしかった。 (2023.10.6 22:49のtweet) グランプリ受賞です❣️ 山形国際ドキュメンタリー映画祭2023 ロバート&フランシス・フラハティ賞🏆 『何も知らない夜』 パヤル・カパーリヤー監督、ほんとうにおめでとうございます🍾 めちゃくちゃうれしいクロージング☺️ (2023.10.11 18:23のtweet) 2023年の10月、山形に一週間ほど滞在、映画祭にがっつり参加した。映画賞の結果と、わたしの評価が一致することはまずないし、そもそも映画賞なるものを一切信頼してはいないのだが、この時は例外中の例外の出来事が起きた。 これしかないと確信した『何も知らない夜』が最高賞に輝いたのである。 彼女自身、もう二度と撮れないであろう、これは映画史に永遠に記録される可憐な傑作だ。 あの時は“詩情”と書いたが、『何も知らない夜』は、“詩情”でも“詩的”でもなく、“詩そのもの”である。 手紙を通して、ある悲恋が読まれていく。映像を通して、“詠まれていく“と言ったほうがよいかもしれない。 インドの現状に、横たわる格差に、古ぼけた因習に、果敢に否をつきつけるアジテーションが、どういうわけか“詩そのもの“となってしまう不思議。 一種のスローガンに近い“誓い“であり、時に“呪詛“であるにもかかわらず、そこには星が瞬き、夜が踊っている。 その閃光のような純度は、彼女が次に撮ることになる『私たちが光と想うすべて』をも凌駕するほどだ。 無垢であり、諦念であり、俯瞰であり、信念であり、刹那であり、一滴である映画。『何も知らない夜』というタイトル通り、無限のイマジネーションを喚起する、これは簡潔にして途方もない逸品である。

25/8/12(火)

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