この妙なタイトルに思わず惹かれた。従来のコメディはスピーディな展開や芸人、役者の個性で笑わせるが、本作は脱力系の独特のセンスで笑わせる。平凡な主婦がスパイになるサスペンス風のストーリーにもかかわらず緊張感は皆無。監督は三木聡。本作を観た時、過去に観たTV番組『北半球で一番くだらない番組』を思い出した。こちらも実験的なコント集で妙に惹き付けられた。三木監督は放送作家出身でこの番組に関わっていたので合点がいった。主演の上野樹里は劇中の気のない「はぁ〜い」という絶妙な返事で決まったという。傍も怪しい夫婦の岩松了とふせえり、温水洋一、『孤独のグルメ』の松重豊など三木監督の常連が独特の世界を作り上げて行く。唐突に繰り出す“手羽先ナチス”や“あずきパンダちゃん”などくだらない小ネタが随所に仕掛けられており、これがまたクセになる。延々とボケたおすのでアドリブが多いのかと思いきや意外にも演出通りだそうである。どのジャンルコメディにも属さない唯一無二のセンス・オブ・三木コメディなのだ。

25/8/8(金)