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芸術・歴史的に必見の映画、映画展を紹介

岡田 秀則

国立映画アーカイブ主任研究員

団地と映画 ー世界は団地でできている

「フィクションに登場する団地」に取り憑かれ、その魅力を発信してもう15年になる「団地団」というグループがあるという。その6人組のクリエーターがこれまで映画作品の中に団地の姿を探してきた活動を基に、名づけて「団地映画」の数々を研究した成果が日本橋高島屋の展示室で開陳されている。 筆者も団地住まいの経験が多少はあるから、入口に置かれたステンレスの郵便受けや緑の掲示板にはつい微笑んでしまう。「団地映画」というと筆者にはまず川島雄三『しとやかな獣』、森田芳光『家族ゲーム』や、近年だと阪本順治によるSF団地映画の傑作ずばり『団地』、そして遡って日活ロマンポルノの「団地妻」シリーズも当然思い浮かぶが、それらは壁一面に拡がるキーワードつきマッピング一覧でももちろんフォロー済み。だが、よく見るとパリ郊外の低所得者用高層住宅もあるし、小津安二郎の『お早よう』まで入っている(あの家はむしろ数軒並んだだけの「文化住宅」では…?)。概念はかなり広く取っているようだ。でも『人生フルーツ』(=高蔵寺ニュータウン)があるなら、本田孝義監督のドキュメンタリー『ニュータウン物語』がなぜないんだろう? そんなことを考えながら見るのも楽しい。 そして会場の中央にある「団地映画」の抜粋集も秀逸で、つい一つ残らず見入ってしまう。だがやや残念だったのが、作家、脚本家、ライター/編集者という「書くこと」を職業とする団員が多数派のせいか、あまりに文字を読ませる展示になっていること。研究パネルにはそれぞれの思考があったし、読ませるための空間デザインにも戦略はあったが、それでも「展示とは何か」という問いが薄かった気がする。 3月から開催されていたが、いよいよ8月24日まで。急がれたい。

25/8/9(土)

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