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演劇鑑賞年300本の目利き

大島 幸久

演劇ジャーナリスト

トム・プロジェクト プロデュース『鬼灯町鬼灯通り三丁目』

今年は戦後80年。猛暑の夏、8月にこそ忘れてはいけないのがあの時代だ。東憲司・作・演出『鬼灯(ほおずき)町鬼灯通り三丁目』は、その戦後の混乱期の中で逞しく生きる女たちの“静かな反戦劇”になっているらしい。 舞台は終戦後2年目の1946年、博多の街。そこには多くの引き揚げ者で溢れていた。鬼灯に囲まれた一つ屋根の下、共同生活で暮らす女たちが主人公である。 その人間関係が、作者・東の世界観と言える必死さ、一生位懸命に生きる姿になって描かれる。 物語は妻・弥生(森川由樹)の元へ復員してきた夫の松尾大吉(浅井伸治)が帰ってきた。ここから混乱が始まる。大吉は既に死んだものと思われ、葬式も終わっていたのだ。家には音無美紀子が演じる番場鶴恵がおり、その幼馴染の鍋島小梅(有森也実)とともに居候していて4人が共同生活を余儀なくされる。さて、どうなる? 鶴恵には裕介という息子がいて、留守を守る弥生が待っていたのは実は裕介だったのだから。 舞台女優として円熟期に入った音無、75歳。メルヘンチックとも思える昭和の原風景での存在感を見たい。

25/8/19(火)

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