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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
九龍ジェネリックロマンス
25/8/29(金)
TOHOシネマズ日比谷
見かけは、W主演の吉岡里帆と水上恒司によるこじれた恋愛ものだが、実はスケールの大きなSFで、そのバランスが絶妙だ。 コミックが原作で、すでにアニメ化もされている。この実写版の冒頭は原作コミックをそのまま絵コンテにしたのではと思うほど、カット割りを含めて再現度が高い。吉岡里帆は複雑な「ひとり2役」。ふたりが同じに見えてはいけないし、といって、違ってもいけないのだが、うまく演じ分けている。 舞台は、かつて香港にあった九龍城砦。すでに取り壊されたはずだが、なぜか、いまもある。その街で暮らす男女が主人公。ところが、吉岡里帆演じる女性は、自分の過去があいまいで、水上恒司演じる青年は何やら人には言えない過去がありそう。 原作コミックやアニメを知っている人にとっては問題ないが、この映画で初めてこの作品を知る人は世界観が把握しにくいかもしれないので、公式サイトでの予習をおすすめする。もちろん、何も知らなくても、徐々にその世界が分かってくるので、大丈夫だ。 遠い未来には実現するのかもしれないが、現在のところは、「ありえない」設定だが、その世界観はあくまで背景にあって、訳ありのカップルのロマンスを前面に立てて描く。 タイトルの「九龍」は「クローン」とのダブルミーニングのようだ。「ジェネリック」は後発医薬品のことだが、それに「ロマンス」がつく。考え抜かれている。 SFのSは普通はScienceだが、ときに、Speculation(思索)のSにもなり、見かけはライトなこの作品は、生命とは何か、記憶とは何か、愛とは何かといった根源的テーマの思索フィクションだ。 といっても、難解ではない。
25/8/15(金)