650年以上に及ぶ歴史を持つ古典芸能「狂言」。今年で94歳になる野村万作は、その第一人者で人間国宝。そんな彼の芸能人生を、2年前の文化勲章受賞の折の記念公演とともに描き出したドキュメンタリーだ。息子の萬斎や孫の裕基らの証言を交えた現在の万作の姿はモノクロ画面、記念公演で演じられる「川上」はカラー画面で描かれる。さらに万作が過去を振り返って浮かぶ「六つの顔」が山村浩二のアニメーションでアクセントのように挿入される。画面はスタンダードに近い4：3のサイズで展開されるが、これは能舞台に合わせたものなのか。犬童一心監督による構成は実にシンプルであり、万作とその芸能人生が簡潔に伝わってくるが、やはり圧巻なのは「川上」の舞台。その美しくも厳かな狂言に魅入られる。

25/8/17(日)