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春日 太一

映画史・時代劇研究家

ベスト・キッド:レジェンズ

えっ、まだこのシリーズを続けるの──! 正直なところ、かなり驚いた。というのも、『ベスト・キッド』は一作目を除くと「面白い!」と心から思える作品は一本もなかったからだ。スピンオフ作品の『コブラ会』が配信で人気を博したとはいえ、思いもしなかった。 本作も賛否は大きくわかれるとは思うが、私自身は楽しむことができた。 これまでの格闘技映画とは主人公が正反対のキャラクターで、「こういうやり方があったか」という発見があったからだ。 通常、この手の作品の主人公は孤独で不器用で暗い影を抱えており、それが闘いを通じて自分のアイデンティティを確立していくキャラクターだ。が、本作はそうではない。 母親と北京からニューヨークに引っ越してきた少年だが、とにかくコミュニケーション能力に長けているのだ。引っ越してきて早々、訪れたピザ屋で差別的な扱いを受けるも巧みなジョークでかわし、さらに店主の娘をデートに誘い出して恋人関係に。しかも、クンフーの達人でもあり、借金に苦しむ店主が地下ボクシングに出場する際にはコーチとして導く。 つまり主人公は健全かつ人間的にもよくできており、周囲の愛情にも恵まれている。「若者が格闘技を通して成長する」という、従来のドラマツルギーがないのである。ジャッキー・チェン、ラルフ・マッチオというふたりのレジェンドを師にしてのトレーニングも和気藹々。 私は梶原一騎やスタローンの描く泥臭い闘いを愛してやまない。が、この蒸し暑い毎日には、こうしたカラッと明るい格闘技映画がなんとも心地よかった。

25/8/18(月)

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