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夏目 深雪

著述・編集業

大統領暗殺裁判 16日間の真実

1979年の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領暗殺から全斗煥(チョン・ドゥファン)による軍事クーデターという韓国激動の時代は、古くは『ユゴ 大統領有故』、最近でも『KCIA 南山の部長たち』や『ソウルの春』など、様々な形で映画化されてきた。この映画は、大統領暗殺事件に巻き込まれ軍法裁判にかけられた随行秘書官パク・テジュを主人公にした法廷サスペンス。 パク・テジュを演じたイ・ソンギュンは2023年10月に麻薬投薬疑惑報道があり、12月に逝去した。自殺と見られる。ホン・サンス映画の常連で人気もあった俳優なのにそういった事情で日本では追悼記事らしいものも出なかった。昨年公開された主演作品『スリープ』も、眠っているうちに何かに憑りつかれたように異常行動を起こす夫を演じていて、身につまされるものがあった。この映画でも、最初の公判から16日後に最終判決が下され「性急裁判」と呼ばれた裁判で一人裁かれたパク・テジュは、どこかイ・ソンギュン自身の生き様と重なるところがあるようで、泣かされる。 『教授とわたし、そして映画』のようなライトな恋愛コメディの優男から、『キングメーカー 大統領を作った男』など骨太なポリティカルサスペンスの策略家まで、演じる役の幅の広さも魅力だった。いずれにしても、何とも言えない憂愁が彼の持ち味であり、この映画でも存分に味わうことができる。

25/8/19(火)

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