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小劇場から大劇場まで、年間300本以上観劇。素晴らしい舞台に出会うため、気になる作品は何でも観ます。

森元 隆樹

演劇ジャーナリスト/プロデューサー/演劇伝道師/読売演劇大賞選考委員

劇団俳優座『霧ぬけて』劇団俳優座創立80周年記念事業

本作の作・演出を務める桑原裕子の出演する舞台を初めて観たのは、彼女が高校生時代に出演した『転校生』(1994年/青山円形劇場)だった。しかし残念ながら、その舞台における彼女の演技の記憶が、今の私には全く残っていない。けれどその後、bird’s-eye view、拙者ムニエル、阿佐ヶ谷スパイダース、双数姉妹などなど、当時注目を集めていた若手劇団の作品に数多く出演し、伸びやかな演技と歯切れの良いセリフ回しで躍動する姿は、はっきりと脳裏に残っており、そしてもちろん、彼女が主宰する劇団KAKUTAの舞台も数多く拝見してきた。やがて彼女は2009年『甘い丘』の作・演出にて平成21年度(第64回)文化庁芸術祭新人賞を受賞。さらに2015年、『痕跡』で第18回鶴屋南北戯曲賞受賞。そして2018年、『荒れ野』で第6回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞受賞、2019年に第70回読売文学賞 戯曲・シナリオ賞受賞と、確実に作家としての力を付けていった。 その桑原裕子が、劇団俳優座創立80周年記念事業の一環として、『霧ぬけて』の作・演出を担う。 <<<>>> 霧をぬけて きりぬけて もっととおくへ行かなきゃ 追いついてしまう わたしが むかしはおおぜいの 子どもたちが暮らしたその家の 最後の子どもが巣立ったその日 いきがいをなくした園長と 仕事をなくした私のもとへ 行き場をなくした彼女はやってきた あの頃と同じ すり切れて破れたぼろぞうきんのようになって 安心して ここは霧の家 誰にも見つからない だって今ここにいるのは 誰にも見つけてもらえなかった人たちだらけ 私が守ってあげるからね 元孤児院、現高齢者施設、DVシェルター 逃げる者、求める者がないまぜの隠れ家で暮らす人々の 愛という執着 愛という依存 愛という嘘 愛というさすらい 愛という霧深き闇のおはなし 生き場を見つけた私たち でも あのひとはまださびしそう [劇団俳優座ホームページより] <<<>>> 思えば桑原は、今年1月、オフィス3〇〇『鯨よ!私の手に乗れ』(本多劇場)にて、若き日の渡辺えりを演じ、渡辺えり・木野花・三田和代を始めとする個性繚乱な役者たちが繰り広げる舞台をしっかりと束ねて牽引し、4月には、チーム徒花『月曜日の教師たち』(ザ・スズナリ)において、「作・演出:岩松了・桑原裕子・千葉雅子・土田英生・早船聡/出演:荒澤守・岩松了・桑原裕子・千葉雅子・土田英生・早船聡」という未曽有の舞台においても、並み居る猛者たちを、手の平でぐるんぐるん回し、コントロールしていた。 その、舞台に対する静かな自信を手に入れた桑原裕子が書き下ろす『霧ぬけて』。80周年を迎える俳優座との、新たなる時代のシナジーに、大きな期待を寄せたい。

25/8/23(土)

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