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日本映画の新たな才能にフォーカス
イソガイマサト
フリーライター
蔵のある街
25/8/22(金)
新宿ピカデリー
街には各々の土地の慣習やルール、立ち寄っただけの観光客には分からない独自の人間関係や距離感、狂おしい問題や葛藤などがあったりするものだ。 『ひまわりと子犬の7日間』(13)、『あの日のオルガン』(19)などの平松恵美子監督が、故郷の岡山県倉敷市を舞台に自らのオリジナル脚本で撮った本作を観て、まさか、そこに思いを馳せるとは思わなかった。 倉敷と言えば、古くからの蔵屋敷が堀割りのような川沿いに立ち並ぶ美しい街並みや大原美術館などで知られる日本でも有数の観光地。でも、それ以上のことは何も知らなかったし、ましてや、そこで生活している人たちがどんな日々を送っているのか知ろうともしなかった。 コロナ禍の子供たちが、閉塞した心を解放するために、大切な人との約束を守るために花火を打ち上げる。いや〜、それぐらいのことしかイメージできなかった自分が情けない。 それだけに、地元の子供と大人たちの間で交わされる繊細なやりとりや倉敷の人たちにしか分からない思いがけない現実の壁は衝撃だった。果たして、倉敷で花火を打ち上げるとはどういうことなのか? 考えたこともなかったけれど、それがどういうことなのか、何が問題なのかが分かってくるに従って、『蔵のある街』というタイトルが何を言わんとしているのか? もじわじわと染みてきた。気づきと発見。そこから先は当事者のように子供たちに寄り添い、映画の行方を見守ることに。そして、清々しい気持ちで映画のささやかな旅を終えるころには、これからもそこで生きていく倉敷の人たちに会いに行きたくなっていた。
25/8/22(金)