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平辻 哲也

映画ジャーナリスト

遠い山なみの光

ノーベル賞作家カズオ・イシグロのデビュー作を『ある男』の石川慶監督が映画化。1950年代の長崎と80年代のイギリスを舞台に、母娘の記憶と真実が交錯する。主人公・悦子を広瀬すずと吉田羊が時代を分けて演じる仕掛けが鮮やかだ。広瀬は近年、大人の女性役への転換を試みてきたが、時に背伸び感があった。本作では自然体で、すんなりと観る者に届く。吉田とは雰囲気が異なるのに、自然に役を引き継ぎ、ふたりの響き合いが物語を豊かにする。これは広瀬の成長の証だろう。二階堂ふみ、松下洸平、三浦友和らも出演。観終えたあと、原作を読み返してみたくなる。大人の観客にぜひ味わってほしい一作だ。

25/8/29(金)

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