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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
海辺へ行く道
25/8/29(金)
ヒューマントラストシネマ渋谷
舞台は、人口減少に悩む、ある海辺の町。そこはアーティストの移住を支援しているため、いろんな自称アーティストがやってくる。全体は3つのパートに分かれており、移住してきたアーティストごとのエピソードだが、全体を通しての主人公は、その町に暮らす少年で、彼は中学では美術部に属している。いまの中学の美術部では、景色や人物を描くのではなく、抽象絵画やそこらにあるモノで何かを表現するなど、現代アートをしているのが、面白い。時代は変わるものだ。当然、これがアートなのか、アートとは何か、という問い掛けもある。 美術部の先輩、後輩、同級生、家族など、少年の周囲の人間のドラマと、怪しげな移住者のドラマが並行して進み、大きな事件になりそうでいて、日常のちょっと変わった出来事に終わる。数シーンずつしか登場しない、大人たちの配役が豪華(詳しくは作品紹介を)。 全体に、「夏休みの絵日記」を思わせる。普通の人の日常では、夏休みだからと、事件が起きることは少ない。しかし、絵日記を書かなければならない。だから、「海へ行きました」「スイカを食べました」という、どうでもいいことが絵日記になる。そんな感じの映画なのだ。といって、これは貶しているのではなく、そういう、些細な出来事を積み重ねることで、見事に一本の「ひと夏の物語」となっている。 少年は美術部だけでなく新聞部や演劇部も手伝う。女子から「忙しいね」と言われるが、「暇なんだよ」と答えるように、彼は、すべてにおいて、受け身。そんな少年の周囲では大人たちによる事件が次々と起き、なかには刑事事件に発展しそうなものもある。少年はそれに直接・間接に巻き込まれるが、傷つかず、悩みもしない。何事もなかったかのように、少年の夏は過ぎていく。 随所に現代社会への風刺があって、近隣住民から「うるさい」とクレームがつかないよう、盆踊りでは、音楽はまったくなく、手拍子だけでしかも、踊る人は笑顔を見せてもいけないという「静か踊り」というエピソードは秀逸。 自称アーティストたちの詐欺まがいの行為もあれば、認知症の老人をめぐる、笑えるけどシリアスなエピソードもあり、淡々とした描写だが、胸を打つシーンが多い。 どこと特定はされていないが、南のほうの町で、その海はどこまでも美しい。町も陽光がふりそそぎ、明るい。いかがわしいアーティストたちは、この美しさに耐えられずに、いなくなるみたいだ。
25/8/27(水)